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【詩誌「コールサック73号」発表詩2篇】

仁愛の家に暮らす人 
クアンナム省のフー・バン・クォン氏へ
              鈴木 比佐雄


バスを降りて
枯葉剤被害者の青年の家に向かう
田の畦道の脇にはオジギソウの赤い花が咲き
手を触れると葉が次々に閉じていく
こんな繊細な自然の世界にも
三十七年前には戦場として枯葉剤が撒かれていた

生後三歳か四歳のクォン氏の柔らかな細胞は
兵士だった父と母の傷ついた遺伝子と
クワンナム省の山河や田畑に
降り注がれたダイオキシンから傷つき
彼の足腰をひどくゆがませてしまった

彼は私たち十二名の一行を笑顔で迎えてくれた
彼の新居に私たちはささやかなカンパをしただけなのに
家のプレートには私たちの団体名を記して「仁愛の家」と記されてあった
平屋建ての古い家を壊して
赤煉瓦を積み上げて作られた二階建ての家を作っている
玄関ドアと窓ははめられていない
残りの資金を稼ぎながら完成させたいと
にこやかに答えてくれた
彼はハノイで衣料品のサンプル品を作るミシン職人だった
作品を見せてほしいと言うと柄物のワイシャツを
不自由な足腰を震わせながら持ってきてくれた
仕立ての良いお洒落着のようなシャツだった
クォンさんはプライドを持って生きていて
私たちはそのシャツを回しながら皆で褒めたたえた

雨期にはこの地方は洪水がやってきて平屋建てだと
水につかってしまうらしい
けれどももう心配ないと
クォンさんは希望に満ちた顔で語ってくれた
傍らには独身の姉が寄り添っている
父母亡き後に田で米を作りながら二人の暮らしを支えている
小柄で控えめで弟のために生きて来た信念を感じさせてくれた
私たちは言い知れぬ感動を与えられて家を離れた

手を振る彼らと別れて畦道を歩きながら
私の暮らす柏で今ごろ稲が伸びている田の畦道を想起し
除草剤が撒かれて野草が枯れ
蛙の卵がオタマジャクシになり田の水を泳ぎ始めるころ
いっせいに姿を消してしまう不思議な光景が浮かんできた
除草剤は命を除く「除生剤」なのだろう
クォンさんと姉の生きる意志は
ベトナムの命を根絶やしにしようとした国の悪意を超えて
オジギソウのように謙虚に慎ましく逞しくもあった




ダイサギの家    
二〇一二年八月十九日 手賀沼に注ぐ大堀川にて


残暑の続く真昼 斜面を下りていくと
ヤブガラシの花が色あせ
菊芋の黄色い花が咲き出している
じきに手賀沼に注いでいる大堀川が見えてくる
その北柏橋附近の川底には
手賀沼の中で最も放射能汚染がひどい
一㎏当たり九七〇〇ベクレルもの放射線が検出されていると
東日本大震災から一年後の三月の新聞が伝えていた
八〇〇〇ベクレル以上は埋め立て処理できない
閉鎖系湖沼近くでは簡単に川底のベクレルは減らない
そんなことを思い出し二〇〇㎞離れていても
このようなホットスポットを作り出した怒りを嚙み締め
週末には必ずこの付近を散歩する
いつものように大堀川が手賀沼に合流する近くまで来ると
口ばしが黄色い白鷺が水面を流れるように進んでいた
その白く長い首が美しくて見とれてしまった
大きな白鷺なのできっとダイサギだと思われた
対岸の浅瀬に大きな数本の樹木がそびえていて
その木の下の陸地にダイサギはすべるように入っていった
私は手賀沼の周りを散歩するのを止めて
川の対岸に渡りダイサギの塒を見に行った
近くまで寄っていくと木々と草の間から
番いのダイサギの他に灰色のダイサギの子どもが見えた
この場所はダイサギ三羽のマイホームだった
一秒間に九七〇〇ベクレルの放射線が発せられて
ダイサギの親子に何ミリシーベルトの放射線物質が届くのだろうか
水面下には源五郎鮒の黒い影が動き水しぶきを上げ
ナタゴやモツゴのような小魚がうようよ泳いでいる
それらの魚を食べたダイサギ親子は
今までとんでもない内部被曝を受けているだろう
福島第一原発から二〇〇㎞離れた場所でさえ
風に乗ってこのように放射性物質が拡散してしまい
沼底も水辺の生きものたちを放射能汚染させてしまった
これは誰も決して責任を負わない時間をかけた完全犯罪ではないか
私の近くを若夫婦が子どもの手を引いて歩いていった
この場所で本当に子育てをしていいのか
柏は年間五ミリシーベルトの放射線量があるだろうと
気鋭の環境学者が語っていた
ダイサギの親子を見ているうちに
柏の街で出会う子ども連れの親子が
ダイサギの親子の姿と重なってきた
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  1. 2012/09/10(月) 15:51:44|
  2. 詩篇
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