【詩誌「コールサック75号」発表詩2篇】【編集後記】

4月30日に詩誌「コールサック」(石炭袋)75号を刊行しました。その中の私の詩2篇と編集後記は、私のいま考えていることなのでご紹介致します。少し長いですが、お読みになって下さい


 タイアン村の海亀      鈴木 比佐雄


一九七〇年夏の福島県浜通りの町に住む
伯父夫婦は数十キロ先の福島原発が
来年稼働することをこわごわと話していた
そんな光景が今も胸に焼き付いている
二〇一一年三月一一日の東日本大震災で
海や山の恵みで暮らしていた二七〇世帯の家々は
津浪が押し寄せて壊滅してしまった
伯父夫婦の息子は運よく高台へ逃げることが出来たが
母の妹の叔母は避難の疲れで
一年後の三月十一日に急死してしまった

「波の神」といわれる津浪伝説を持つ
ニントゥアン省のファンラン市から北へ二〇㎞
人口二〇〇〇人が暮らすタイアン村
海亀が生息しサンゴ礁もある美しい海岸線
豊富な魚介類 葡萄、葱、大蒜の農産物
山羊、羊、牛、鶏の家畜
穏やかな気候の中で人びとは笑顔で暮らしていた

福島原発事故の起こる半年ほど前
二〇一〇年十月にこの地に原発を作ることを
ベトナムと日本政府が取り決めた
村人たちは北数㎞先へ移住させられた

けれども二〇一二年五月二十一日 ベトナムの市民四五三人が 署名し
日本政府がベトナムの原発建設を支援するのは
「無責任、もしくは非人間的、不道徳な行動だ」と抗議する文 書が
在ベトナム日本大使館や日本外務省に送付された(*)

日本政府はこの抗議にどのような回答を持ち合わせているのだ ろうか
放射能汚染の影響でいまだ十六万人もの避難者を出しながら
ベトナムの人びとの不安や恐怖を押し切って
日本で破綻した「安全神話」を回答にして
原発を二〇一五年から建設し二〇二〇年に稼働させてしまうの か
「波の神」は原発を越えてしまうのではないか
サンゴ礁を泳ぎ海辺に卵を産み付ける
海亀の未来を奪っていいのだろうか
タイアン村の暮らしを永遠に奪っていいのだろうか

*「東京新聞」二〇一二年七月十二日付記事及び、国際環境NGO 「FoE JAPAN」のHP参照。


 こたつシェルター  鈴木比佐雄     


3・11から2年目の朧月
福島原発事故で故郷を離れた
仮設住宅の人びとの目には
在りし日の帰らぬ人や故郷の春景色が
張り裂ける胸の中に現れて
静かに微笑んでいるだろうか

さっき会社訪問から帰った大学生の娘が
黒いスーツを脱ぎ捨て
そそくさと普段着に着替えて
こたつの中に頭から入り込んで出てこない
娘にとってこたつは仮設住宅の
緊急避難所なのだろうか
それとも核シェルターのようなものだろうか

世界で最も豊かな国アメリカの核戦略に
世界で最も貧しい国北朝鮮が
核弾道ミサイルを突き付けている
竹やりの先に核の毒を付けて振り回している
ソウル、釜山、沖縄、横須賀、三沢
そしてグアム、ハワイへと

一九〇三年 ライト兄弟が飛行機を離陸
一九三八年 ハーンとマートンが核分裂を発見
一九四五年 トルーマンが広島・長崎に原爆投下
一九五四年 米軍がビキニ環礁で水爆実験
一九七九年 スリーマイル島原発事故 レベル5
一九八七年 チェルノブイリ原発事故 レベル7
二〇一一年 福島原発事故 レベル7

アメリカ・旧ソ連・日本の次は
どの国に核の悲劇は訪れるだろう
フランスなどのヨーロッパの国々だろうか
経済発展著しい中国などのアジアの国々だろうか
天変地異は人間の浅はかな知恵を超えているので
核燃料棒の冷却装置の配管を軽々と破壊し
放射性物質は地球を汚し続けていく

広島・長崎を一瞬で消滅させた核兵器や
それに転用可能な最高レベルの「悪魔の技術」を持ちたがる
政治家・官僚・兵器と電力産業の幹部たちの
地球を破滅させるニヒリズムの眼差しの果てに
この世にはどこにも核シェルターも核の傘も存在しない
放射性物質で汚染された水や空気は地球を循環し
娘の潜るこたつシェルターにも
私の呑む水割りグラスにも
忍び込んでいるのだから」



編集後記          鈴木 比佐雄

 福島第一原発のある双葉町から広野町までの三〇㎞にわたる波打ち際では、どの海岸でも生息している巻貝の一種である「イボニシ」が消えてしまったという国立環境研究所の研究論文の内容が東京新聞に紹介されていた。「イボニシ」は海洋汚染に敏感で生殖異常を起こすことで有名らしい。福島の山河の放射能汚染は、大熊町・浪江町・飯舘村・南相馬市ではプルトニウムの沈着も発見され、その実態がますます深刻さを増している。海岸線から海そのものも広範に汚染されていることも明らかになっている。南相馬市の太田川沖合い一㎞のアイナメからは、一㎏当たりセシウム134と137合わせて2万5800ベクレルが検出されている。アイナメはカニやエビを食べるので、多くの魚介類も高い濃度で汚染されていることが推測できる。事故当時にストロンチウムが462兆ベクレルも海に流失し、これは世界最大の海洋汚染といわれる英国セラフィールド核燃料再処理工場の放出量に匹敵している。福島第一原発四基の廃炉に向かう膨大な汚染水の漏洩は、原発事故がいかに想像を超えて環境を破壊し続けるかを物語っている。日本人は「原子力ムラ」を本当に解体させる改革が出来るだろうか。自民党政府・行政や東電などの電力会社・原子力を推進した関係者たちは、自分たちの過信がどのような事態を引き起こしたのかを直視しようとしない無責任な確信犯だ。現実を直視しないで再び「安全神話」のムラの森に逃げ込んでいるように思えてならない。父母や祖父母たち先祖が生きてきた美しい福島の海がこのように放射能まみれになってしまっていることは、本当に心が痛む。第二・第三の福島が起こらないようにどのようにしたらいいのか、自分なりに出来ることを実践していきたいと考えている。
 昨年の秋から今年の春にかけて震災・原発事故に関係する次の詩集・句集・評論集を出してきた。芳賀稔幸詩集『広野原まで―もう止まらなくなった原発』、二階堂晃子詩集『悲しみの向こうに―故郷・双葉町を奪われて』、岡田忠昭詩集『忘れない』、若松丈太郎著『福島核災棄民―町がメルトダウンしてしまった』、東梅洋子詩集『連結詩 うねり 70篇 大槌町にて』、永瀬十悟句集『橋朧―ふくしま記』、高橋郁男著『渚と修羅―震災・原発・賢治』、金田茉莉著『終わりなき悲しみ―戦争孤児と震災被害者の類似性』やもうすぐ出るうおずみ千尋詩集『白詰草序奏―金沢から故郷・福島へ』などだ。これらを読んで頂ければ、現在の悲しみと怒りに満ちた情況から、帰らぬ人びとを忘れることなく、いかに未来を切り拓いていったらいいかの様々な示唆が読み取れる。福島県須賀川市の永瀬十悟さんの句集には、二〇一一年に「ふくしま五十句」で角川俳句賞を受賞した五十句を含めた四〇八句が収録されている。朝日新聞の元論説委員で天声人語を四年間担当していた仙台出身高橋郁男さんは、賢治が晩年に自分を含めた人間を戒めた「慢」を胸に秘めて多くの児童を失った大川小学校をはじめ東北の海岸を歩き、震災・原発から引き起こされた問題を自らの内面に問うエッセイを書き上げた。また金田茉莉さんは九歳の時に東京大空襲で母・姉・妹を亡くし戦争孤児になった。父もすでに亡くなっていたため筆舌に尽くせぬご苦労をされた。そんな金田さんが戦争孤児と震災孤児を含めた被災者との類似性を見出し、自らの体験を踏まえて、救済されていない戦争孤児や今後の震災被害者をめぐる様々な支援の在り方などを論じたものだ。ぜひ読んでもらいたい句集や評論集だ。
 北朝鮮の核兵器搭載可能な弾道ミサイル発射が日本などの周辺国との緊張を高めている。二十世紀は無差別大量殺戮兵器が作られそれが使用された時代であったが、二十一世紀もその殺戮兵器が進化しすでに広範に拡散している。世界で最も貧しい国が世界で最も豊かな国を核兵器で威嚇する国際情況は、アメリカの核兵器製造のマンハッタン計画の歴史を北朝鮮が模倣・反復しているからだ。北朝鮮の無謀さを見ていると、日本政府の無謀さもまた同時に浮き彫りになってくる。アメリカの原爆の派生技術である原発による大規模発電の誘惑を模倣・反復し、レベル7の福島原発事故を引き起こし、活断層があるにもかかわらず大飯原発を再稼動させてしまった。またその他の原発も再稼動を目指しているのは、国内の電力供給以外の隠れた目的があるからだ。国内ではすでに新たな原発は作れないので、リトアニア、ベトナム、ケニア、サウジアラビアなど世界中に原発を輸出しようと画策している。このことは冷静に考えれば「福島原発事故の悲劇」を世界に輸出しようとする恐るべき死の商人的な行為だ。東芝、日立、三菱重工とそれらメーカーを後押しする日本政府は、それらの国々の原発建設に反対する民衆を敵に回し、その国の未来の環境を破壊しようとしている。原発などの核に関わる問題は、政治や経済の問題だけでなく、地球で他の生物と共生する持続可能な生き方の問題であり、地球の未来の時間に関わる切実な文明の根幹に関わる問題であることは明らかだ。
 昔もよく聴いていたが最近もジョン・レノンが作詞作曲した名曲「イマジン」を聴きたくなる時がある。若い頃よりも今になって聴くとその詩の意味がより深く伝わってくる。「Imagine thereʼs no heaven Itʼs easy if you try No hell below us Above us only sky Imagine all the people Living for today (想像してごらん 天国なんてないんだと… その気になれば簡単なことさ 僕らの足下に地獄はなく 頭上にはただ空があるだけ 想像してごらん 全ての人々が 今日のために生きているんだと)」。二連、三連は「天国」のところを、「国境」や「所有物」などに代えて展開する。そして 四連目は「You may say Iʼm a dreamer But Iʼm not the only one I hope someday youʼll join us And the world will be as one (僕を夢想家だと思うかも知れない だけど 僕ひとりじゃないはずさ いつの日か きみも僕らに加われば この世界はひとつに結ばれるんだ)翻訳:山本安見」で終わっている。ジョン・レノンは宗教や国境や貧富の差を超えて、いま生きている民衆の側に立って新たな普遍的な価値を目指していた「夢想家」だった。 核兵器の廃棄や原発を廃炉にすることはジョン・レノンのような「夢想家」を一人ひとり増やして「世界はひとつに結ばれる」日を目指すしかないだろう。このような「夢想家」を凶弾で抹殺してしまう世の中は今も続いているけれども。
 今号の三八八頁でも触れたが『ベトナム独立・自由・鎮魂詩集』(日本語・ベトナム語・英語合体版)も日本人の詩は七十篇近く集まってきて、参加者に心からお礼を申し上げたい。ベトナムの詩人はもう少しで一〇〇篇が送られてくるというメールがベトナム文学同盟から入っている。これからベトナム語と英語の翻訳に向かいたいと考えている。
 「コールサック」も二十六年目を迎えた。七十五号も四百頁を超える大冊になり、詩と同様にエッセイ・評論も重視するので今後も変わらないと思っている。今号より編集も佐相憲一さんのほかに亜久津歩さんにも加わってもらうことにした。亜久津さんは元気な男の子を産んで逞しく復帰してきた。女性や主婦の観点で斬新な企画編集をして欲しいと願っている。詩集や評論集などの新刊の編集にも本格的に関わってもらうことにした。
 今までは「コールサック」の多くを贈呈してきたが、勝手ながら次号の七十六号から三号分の「年間購読会員」(三〇〇〇円)になって頂きたいと願っている。寄稿者にもそのお願いをするお知らせをお送りさせて頂いた。詳細は巻末頁でもお願いの説明をしており、「コールサック」の詩運動の持続可能な形を模索しているので、ぜひご支援を宜しくお願い致します。 
 七十六号の締め切りは七月二十日です。

コールサック社ホームページ
http://www.coal-sack.com/
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  1. 2013/05/08(水) 15:15:39|
  2. 詩篇・編集後記
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